奄美の鶏飯(けいはん)とは。由来と食べ方、島で食べられる4軒
TASTE / グルメ 鶏飯 奄美市

奄美の鶏飯(けいはん)とは。由来と食べ方、島で食べられる4軒

ごはんに具をのせて鶏のスープをかける奄美の郷土料理・⁠鶏飯。薩摩藩の役人をもてなす料理として生まれた由来、今の形になった経緯、具材とスープの中身、ごはんを少なめによそう食べ方、島内4軒の値段と営業時間までまとめました。

文・はげ〜

奄美大島に来た人が、ほぼ確実に一度は食べる料理がある。鶏飯だ。白いごはんの上に、鶏のほぐし身と錦糸卵と椎茸をのせ、熱い鶏のスープをたっぷりかけて食べる。

見た目は出汁茶漬けに近いが、出汁が鶏である点がまるで違う。そして「昔から島にある料理」と一言で片付けると、実際とは少しずれる。今わたしたちが食べている形の鶏飯は、戦後に一軒の宿が作り上げたものだ。

鶏飯は「けいはん」。ごはんに具をのせてスープをかける

左は黒い鉄鍋に入った鶏スープ、白飯の茶碗、赤い漆器、7種の具材をのせた絵皿がテーブルに並んだ一式。右は白と紺の器に錦糸卵・鶏のほぐし身・刻み海苔・小ねぎがのり、スープが張られた鶏飯の一杯

読み方は「けいはん」。「とりめし」ではない。鹿児島県の郷土料理として農林水産省の「うちの郷土料理」に登録されていて、伝承地域は奄美地域とされている。

店で頼むと、ごはんの茶碗と、具を並べた皿と、熱いスープが別々に運ばれてくる。自分で組み立てて食べる料理なので、目の前に並んだ時点ではまだ完成していない。

島では祝い事や来客をもてなす席で作られてきた料理でもある。同時に、さっぱりした味なので夏に食欲が落ちたときにも食べられる。特定の季節の料理ではなく、一年を通して食べられている。

由来は、薩摩藩の役人へのもてなし

江戸時代、奄美群島は薩摩藩の支配下にあった。砂糖の取り立てが厳しかった時代に、鹿児島本土から島に来る役人をもてなすため、当時貴重だった鶏を余さず使って作られたのが始まりだと伝わっている。役人の気持ちを少しでもやわらげようとして作った、という言い方で語られることが多い。

ただし、起源が一つに定まっているわけではない。

「鶏飯」という料理名が奄美の文献に出てくるのは、幕末に書かれた『桂久武日記』が最初とされる。一方、19世紀半ばの島の暮らしを記録した『南島雑話』には豚肉の料理は出てくるが、鶏飯は出てこない。奄美では正月前に黒豚を捌いて塩漬けにし、野菜と刻んで炊き込みごはんにする「豚飯」があり、これを鶏に置き換えたのが鶏飯だという説がある。江戸時代の本土の料理書『名飯部類』『料理網目調味抄』には、茹でた鶏肉を裂いて飯にのせ出汁をかける作り方が載っていて、本土から伝わった料理が島に残ったという見方もある。

はっきりしているのは、もともとは炊き込みごはん風の料理だったということだ。ごはんにスープをかける形は、後から生まれている。

今の形は、戦後に一軒の宿が作った

左は「元祖鶏飯 みなとや」の店頭。石の台に立つ鶏の像と、その脇に立つ店名の石碑、奥に瓦屋根の店舗。右は障子と格子窓が並ぶみなとやの店内で、畳の座敷とテーブル席が窓沿いに続いている

昭和21年(1946年)、奄美市笠利町赤木名で旅館みなとやが開業する。初代の岩城キネさんが、それまで炊き込みごはん風だった鶏飯を、ごはんに具材をのせて鶏スープをかける形に作り変えた。今の鶏飯はここから始まったとされている。

広く知られるきっかけは、昭和43年(1968年)4月だった。皇太子夫妻(現在の上皇上皇后)が奄美大島に来島した際、島を代表する食事としてみなとやの鶏飯が供され、おかわりをした。これが伝わって島の外にも知られるようになり、奄美を代表する郷土料理になっていく。

つまり、今の鶏飯は郷土料理としてはかなり新しい。この形になってから、まだ80年経っていない。

鹿児島県内では学校給食の定番でもある。カレーライスと人気を二分し、2005年には県内の給食で1番人気に選ばれている。鹿児島で育った人にとっては、観光の料理ではなく給食の記憶の中にある料理でもある。

器に並ぶのは7種類。パパイヤ漬けとみかんの皮が奄美らしさ

左は「鶏飯 みなとや」と藍色で入った白い絵皿に、椎茸の煮付け・刻みねぎ・みかん粉・パパイヤ漬け・錦糸卵・鶏のほぐし身・海苔が7種に分けて並んだところ。右は白い丼に、刻み海苔・小ねぎ・パパイヤ漬け・椎茸・錦糸卵・鶏のほぐし身が放射状にのった居酒屋の鶏飯

みなとやの絵皿に並ぶのは7種類だ。鶏のほぐし身、錦糸卵、椎茸の煮付け、刻みねぎ、海苔、みかんの皮を乾燥させた「みかん粉」、そしてパパイヤ漬け。

龍郷町のひさ倉になると、ここに紅生姜と、干して刻んだタンカンの皮が加わる。店によって具の数も配分も違うので、2軒回るとその差がはっきり分かる。

本土で出される鶏飯と決定的に違うのは、柑橘の皮と青パパイヤの漬物が入るところだ。農林水産省が挙げている材料にも、パパイヤの味噌漬けとみかんの皮が入っている。島外ではこの2つが手に入りにくいので、たくあんや奈良漬けで代用されることが多い。柑橘の香りが立つかどうかで、同じ鶏飯でも印象がかなり変わる。

スープにも差が出る。島の専門店は丸鶏を煮てスープを取る。ひさ倉の場合、100リットルの寸胴に丸鶏18羽と鶏がら15kgを入れ、弱火で5時間強かけて炊き上げ、仕上げに塩と薄口醤油、そして黒糖焼酎で香りを立てる。島の外や家庭では鶏がらや切り分けた肉で簡略化することが多く、そこで風味に差がつく。

食べ方は「ごはんを少なめによそう」から始まる

左はご飯の上に錦糸卵・ほぐし鶏・刻み海苔・紅生姜がのった鶏飯を、レンゲですくい上げたところ。右は木の蓋がのった黒い鉄鍋と、赤い柄の柄杓。鍋は木の台に置かれている

みなとやの公式サイトには食べ方が5段階で書かれているが、決定的なのは最初の一行だ。ごはんは少なめによそう

ごはんを山盛りにすると具とスープの比率が崩れて、どちらも足りなくなるからだ。最初から2杯目に進む前提で組まれた食べ方なのだ。

そのうえで、具とスープをかけたら混ぜ込まない。ごはんは少なめ、スープは多めにして、さらさらとかき込むように食べるのがいいとされる。

2杯目のことは、店に着く前に頭に入れておいたほうがいい。ひさ倉はごはんがおひつで来るので、1杯目で具を全部のせずに取り分けておける。一方、みなとやはおかわりが有料で、ごはん1人前300円、スープ1人前400円がかかる。1,500円のつもりで行くと会計で戸惑うので、2杯目まで食べるなら1,800⁠〜⁠2,200円で見ておきたい。

もうひとつ、スープはかなり熱い。ひさ倉は注文が入ってから一鍋ずつ仕上げるので特に熱く、夏場は汗をかきながら食べることになる。真夏に行くなら一枚脱げる服装にしておくといい。

島で食べるなら、この4軒

左は「けいはん ひさ倉」の外観で、壁に鶏とヒヨコの看板。中央は名瀬の「鳥しん」の外観で、黒い板張りの建物に木の看板と赤い提灯。右は夜の「居酒屋 脇田丸」の入口で、赤い文字の看板と黄色い提灯、生け簀が並ぶ

店(エリア)鶏飯の値段営業時間
元祖鶏飯 みなとや(笠利町)1,500円11:30〜材料切れまで
けいはん ひさ倉(龍郷町)1,540円11:00⁠〜⁠16:00
鳥しん(名瀬)1,400円11:00⁠〜⁠21:30(水曜休)
漁師居酒屋 脇田丸(名瀬)530円/830円17:00〜

値段は税込で、いずれも変わることがある。

  • みなとやは今の形を作った店。奄美空港から車で10分。予約は受け付けておらず、おかわりは有料になる。
  • ひさ倉は鶏を自家飼育している店。空港から20⁠〜⁠30分、龍郷町にある。支払いは現金のみ。
  • 鳥しんは名瀬市街の店で、昼から夜まで通しで開いている。夜は島料理の居酒屋になる。
  • 脇田丸は屋仁川の漁師居酒屋。地魚で飲んだ締めに、小と大から選んで頼める。

並び順そのものが動線になっている。奄美空港に降りて名瀬へ向かうと、みなとや、ひさ倉、名瀬市街の順に通る。初日の昼に空港近くのみなとやへ寄る、あるいは名瀬へ移動する途中でひさ倉に入る、という組み方が現実的だ。

注意したいのは営業時間だ。専門店は昼だけの営業が多い。みなとやは材料がなくなり次第終了、ひさ倉も16時までで、どちらも夕方には閉まっている。夜に鶏飯を食べたいなら名瀬の鳥しんか、脇田丸のような島料理の居酒屋で締めに頼むことになる。

食べ比べるなら、味の濃さより具の構成とスープの温度を見るといい。同じ料理名でも、店ごとに設計が違うことがよく分かる。

家で食べる

みなとやと鳥しんは、鶏飯の発送を受け付けている。

みなとやは1個1,300円。ここに送料・⁠冷凍料・⁠代引き手数料が全国一律2,000円かかるので、1個だけ頼むと3,300円になり、店で食べるより高くつく。10個以上で送料が無料になるため、まとめて頼む前提の設計だ。ねぎと海苔は入っていないので、自分で用意する必要がある。

鳥しんは鶏飯セットが2人前・⁠税送料込で4,000円から。黒豚角煮や鶏もも肉炭火焼とのセットもある。無添加のため受注販売で、届くまでにおよそ1週間かかる。

島の家庭では、人をもてなすときや、家族が島に帰省したときに作られる料理だ。専門店で食べる一杯とは別に、そういう「おふくろの味」としての顔もある。

一杯目は店の味、二杯目は自分の味

鶏飯は、店が作りきって出す料理ではない。具の配分もスープの量も、食べる側が決める。だから1杯目は店の盛り方のとおりに食べて、2杯目で自分の好みに寄せるのが面白い。

島に着いた初日に食べるなら空港側のみなとや、名瀬に泊まる日なら鳥しん。旅程の中でどこに挟むかは、はじめての奄美大島 2泊3日モデルコースと合わせて考えると決めやすい。

営業時間・⁠定休日・⁠値段は変わることがある。訪問前に各店の最新情報を確認してほしい。

よくある質問

鶏飯はなんと読みますか?

けいはんと読む。奄美で「とりめし」とは呼ばない。ごはんに鶏のほぐし身や錦糸卵などをのせ、鶏でとったスープをかけて食べる料理で、鹿児島県の郷土料理として奄美地域に伝わっている。

鶏飯はいつからある料理ですか?

江戸時代に薩摩藩の役人をもてなす料理として作られたと伝わる。ただしごはんにスープをかける今の形になったのは戦後で、1946年に笠利町で開業した旅館みなとやの初代が作り変えたものとされている。

鶏飯の食べ方は?

ごはんを少なめによそい、具をのせて熱いスープをたっぷりかける。混ぜ込まずに、さらさらとかき込むように食べる。1杯では足りない量になるよう設計されているので、2杯目まで食べる前提で最初は軽く盛るといい。

予算はどのくらいですか?

島の専門店で1,400⁠〜⁠1,540円。みなとやはおかわりが有料(ごはん300円・スープ400円)なので、2杯目まで食べるなら1,800⁠〜⁠2,200円で見ておきたい。居酒屋の締めに食べるなら500⁠〜⁠900円台で収まる。

夜でも食べられますか?

専門店は昼だけの営業が多い。みなとやは材料がなくなり次第終了、ひさ倉は16時までで、夕方には閉まる。夜に食べるなら名瀬の鳥しん(21:30まで通し営業)か、島料理の居酒屋の締めに頼むことになる。

家でも食べられますか?

みなとやと鳥しんが発送を受け付けている。みなとやは1個1,300円に送料等が全国一律2,000円、鳥しんは2人前・税送料込4,000円から。鳥しんは無添加の受注販売で、届くまでにおよそ1週間かかる。